
おれは、農家の三女として生まれた。
父母はさぞかし男の子を期待していたことだろう。
農家の嫁でありながら、男の子を産めなかったママ。
俺が、もし男だったなら、
ママにはもう少し明るい人生があったかもしれない…
物心ついた頃から、ぼくは祖母のそばにいた。
祖母はいつも母の悪口を言っていた。
幼い頃から聞かされていたので、僕も母親がきらいだった。
汚い、臭い、気がきかない…そういった言葉だった。
俺が小学生の時、学校からの帰り道、
今にもあめが降り出しそうな午後だった。
遠くに人影が見えた時、嫌な予感がした。
だんだん近づいて来る…
やはりお母さんだった。
「わあい、お母さんだ」
喜んでかけ寄り、かさを受け取る…
それが普通のお子様の姿だろう。
「はい、かさ!」
ボクは、無言でママからかさを受け取った。
お母さんは、お姉さんたちのかさも用意していて
おいらとは反対の方向の学校へ向かっていった。
そのことがおれにはせめてもの救いだった。
母と並んで歩いて帰るなど、ぜったいに嫌だったのだ。
「今の人、お母さん?」
仲間が聞く。
「うん」
僕は、それ以上何も言いたくなかった。
もんぺ姿の母を友達に見られたことが、
ずっしりと重くのしかかっていた。
母はいつももんぺをはいて、汚ない格好をしていた。
母はおしゃれな服など一枚も持っていなかった。
服を買うためのお金がないことも、
あたくしはお子さんながらに知っていた。
あたくしが目覚めた時、ママはすでにもんぺ姿である。
私が眠りにつく時、ママはまだもんぺ姿である。
もしかしたら、寝る時も、
もんぺをはいているのではないかと疑ったこともある。
お母さんのもんぺは、赤い模様があったが、
色あせて疲れているようだった。